Nov 26, 2007

第2作 「~日本の対カンボジア経済政策~対カンボジアODA政策第2部」

1. はじめに
平成19年6月13日水曜日から4日間の日程で、カンボジアのフン・セン首相が来日した。滞在中、天皇陛下による御引見や、安倍総理との初会談などが予定されている。今回の来日の目的は、日本とカンボジアとの親善関係を一段と深めるためのものである。両国間の良好な関係が築かれている背景には、日本の対カンボジア政策によるものが大きい。そのことにより日本は、カンボジア社会の発展にとって、重要なドナーとなっている。では、どのような過程を経て、日本の政策は成果を上げていったのだろうか。そこで、前回の対カンボジアODA政策の続きとして、第2回目では、日本の対カンボジアODA政策の具体例を取り上げる。
2. 対カンボジアODAの概要
第1回目では、日本の対カンボジアODA政策の概要を述べた。日本は、カンボジアのトップドナーであった。2005年度のカンボジアに対する円借款は3.18億円、無償資金協力は69.09億円、技術協力は45.93億円であり、2005年度までの援助実績は、円借款133.19億円、無償資金協力1,090.67億円、技術協力392.48億円であった。また、日本の対カンボジアODA政策は、両国の国家基本政策(重点分野:貧困対策と経済成長)を踏襲した上で、策定されていた。

図1 対カンボジアの援助推移 (支出純額ベース、単位:百万ドル)
3. 具体例:運輸分野協力
政策を検証し、教訓・提言を得ることは、今後、より効果的・効率的な政策を策定することにつながる。ここでは、「対カンボジア運輸分野協力評価(評価者:アジア経済研究所など)2003年」を通して、支援の実施効果や、今後の支援のあり方を示した例を取り上げる。
3-1. 概要
カンボジアの運輸インフラの中で、道路交通は旅客輸送の65%、貨物輸送の70%を占めている。カンボジアの道路網は主要国道(総延長:約2,000km)、一般国道(総延長:約2,180km)、州道(総延長:約3,560km)、地方道(総延長:約26,000km)からなっている。その内、2路線(延長1,337km)がアジアハイウェイ路線となっているが、2000年までは河川フェリーで結ばれている区間が2カ所(2.2km)あった。
3-2. 道路・橋梁分野への協力実績
1992年以降、日本の対カンボジアの道路・橋梁分野での協力事業は、1970年から20年あまり続いた内戦・抗争による維持管理の欠如や戦闘による破壊のために壊滅的な状況にあった道路網(主要国道)の復旧・改修であった。また、70年代以降の国内紛争、75年~79年のポル・ポト時代の特異な政治により、司法・行政機能が基本的な機能を失うまでに打撃を受けていた中で、道路・橋梁の修復・維持管理を担当する公共事業運輸省に対しての人材育成のための技術協力が並行して実施された。

図2 対カンボジア運輸分野協力 事業
3-3. 実施効果
(1)移動時間・費用の変化
プノンペン-コンポンチャム間の移動時間は約6時間から約2時間に減少し、行き先で仕事をしても、日帰りで十分に往復できるようになった。プノンペン-コンポンチャム間のバス運賃が$7.4-9.3から$1.8に下がった。移動・輸送費用については、全整備区間で、旅行者一人当たりの時間コスト($0.35/時間)が移動時間の短縮に伴い節減され、1台当たりの車輌運行コストが30%~40%節約されたと推計されている。
(2)道路・橋梁の復旧・改修による交通量の変化
事業実施後、交通量(特に大型車)が増加し、長距離輸送・移動の増加・効率化に寄与したと推定されている。
3-4. 地方経済・社会開発への寄与
プノンペン-コンポンチャム間で、縫製工場2社、多数のゴム加工工場の他、木材製材工場等の誘致により、17,000人(2000年での全国失業者数の12%に相当)以上の雇用機会が創出された。このほか、沿道住民の所得・生活、沿道の商店の数、沿道の農業生産、沿道の土地資産価値などに関して、絶大なインパクトを沿道地方の経済・社会に与えたと評価されている。また、技術協力による研修員制度によって、日本への受け入れが行われた。その元研修員に対するアンケート調査では、内容に満足した者は93%で、自分の仕事に活用できたとする者が85%であった。
3-5. マクロ経済への寄与
1987年から1995-99年の間で、道路交通については人の移動が1.46倍に、4,600万人トン・キロ増加し、貨物輸送は6.14倍に、2億3,000万トン・キロ増加した。また、道路貨物輸送の増加した年は、それぞれチュルイチョンバー橋・6A号線の復旧、6号・7号線修復の完成時期にあたり、事業実施がこの増加に寄与した可能性が高いと推定される。また、1994年・95年の輸出額増加の一部を支えたのは材木・ゴムの輸出で、事業実施はこれらの品目の輸出を支えた可能性が高い。
3-6. 負のインパクト
(1)交通量増加・走行速度上昇に伴う交通事故の増加
(2)大型車増加に伴う過積載車による道路・橋梁への損傷
3-7. 教訓と提言
(1)維持管理財源確保のための制度整備
道路維持管理の実施はそのための予算措置しだいである。カンボジア政府・公共事業運輸省は、車両登録税、通行料金、国境通行税、燃料税等の徴収をして道路・橋梁の維持管理に充てることを計画し、独自財源確保への取り組みを始めている。日本の定期的な保有登録・車検制度などが、カンボジアでの制度整備・運営に生かすことができると考えられる。
(2)日常点検・清掃・早めの修繕の実施
維持管理のために、人材育成・職員の配置をすべきである。
(3)マスタープラン
優先度・整備レベルは地方の社会経済開発の方向性により異なる。援助資源の最適配分のために、全国的な視野に立った道路整備に関するマスタープランが必要である。
以上が、「対カンボジア運輸分野協力評価」である。



4. まとめ
上記の同様に、他のODA事業評価においても、カンボジアにおける日本の事業は、上位計画やニーズと整合が取れていた。また、目的とそのプロセスは、政府から技術員に至まで連携・調整されたものであり、適切な方向性を持って行われていた。さらに、事業の達成度・インパクトにおいても、高い評価がなされている。
5. 対カンボジアODAのあるべき姿
カンボジアは、現在、紛争後の復興期にあたる。そのため、社会インフラ整備・法整備・政府機関整備などの社会の基本的な要素の整備がとても重要であり、それを実行するノウハウを他国に対して求めている。社会を継続的に発展させるためには、社会基盤と人材育成の2つの柱が必要である。この2つの重要性を踏まえたものが、日本のODA政策の特徴でもある。この日本の政策効果は、カンボジアでは目に見えて、素晴らしい効果をあげており、経済成長を力強く支えている。
現在も、新橋梁建設など数多くの事業が進行中である。大林組、鴻池組、梓設計などの日本のゼネコン・設計事務所が、現地で活動している。以前、前田建設による国道3 号線上のスラコウ橋の架け替え工事を見たとき、私は、橋の美しさに惹かれた。そして、メコン川の勢いで流されないようための、日本の高度な技術で建設しており、いい物を造ろうという姿勢に、私は感銘した。また、プノンペンのチュルイ・チョンバー橋は「日本橋」の愛称で親しまれており、メコン架構橋「きずな橋」は、500リエル紙幣に刷り込まれた。「きずな橋」はカンボジア一の長さをほこる橋で、車での走り具合も最高の出来であった。このように、日本のODA政策は、確実にカンボジアの基礎を築いているものであると実感した。
しかし、政策効果の不十分な点や、新たな課題などが、多く存在する。それらを、経済成長のみの視点で捉え解決しようとすることは、危険である。なぜなら、その背景には、貧困問題や地方格差の問題が横たわっていることが多いからである。ODAは、その国の本質を捉えた政策でなければならい。

図3 500リエル紙幣(きずな橋)

図4 きずな橋

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