Nov 26, 2007

第3作 「~対カンボジア経済政策~カンボジア経済と世界経済の統合」

1. はじめに
平成19年6月14日に「日・カンボジア投資協定」が締結された。これは、①日本とカンボジアとの間の投資を促進し、両国間の経済関係を強化すること。②カンボジアの海外直接投資(FDI)を誘致する形での経済発展を志向する成長戦略に貢献するものである。つまり、日本とカンボジアとの新たな関係を築く上での、足固めである。このように、両国の経済の結びつきは順調に密接度を高めている。だが、この成果の背景には、これまでの政策の積み重ねがある。以前、その一部の紹介として対カンボジアODAを紹介した。そこで第3回目として、ODA以外の政策とその効果による現況について取り上げる。ただ今回は、カンボジア経済に即した視点であるため、日本以外の国・組織についても触れている。
2. カンボジア経済の概要
1980年代半ばから、カンボジアは計画経済から市場経済、内向きから外向きの経済開発戦略、ソビエトブロックとの緊密な経済関係から世界・地域市場経済とのより緊密な関係へと経済移行に力を注いできた。1990年代と最近年における経済成長率の上昇は、経済的利益を明らかなものにしている。だが現在でも、カンボジアは東アジアの低所得経済であり、後発発展途上国(LDCs)である。

図1 カンボジア主要輸出品 2002年 (100ドル:成長率、%)
カンボジア経済は、徐々に世界経済へと統合されてきた。1999年ASEANに加盟し、2004年にWTOに加盟した。カンボジアは、天然資源開発に輸出主導かつFDI主導型の製造業を加えたASEANモデルに従っている。しかしそれらは、製造業品を輸出する能力を開発する初期段階にあり、衣服や履物といった労働集約的な製品を主に製造している。国内経済改革は、市場アクセス、投資、技術的資源そして開発援助の提供を可能にする国際的かつ地域的な環境作りを必要としている。1990年から2003年までの年平均GDP成長率は6.6%であり、推定された1人当たりGDPは、2001年までにカンボジアが1124ドルに達した。
3. 貿易と投資からのカンボジア経済
3-1. 最恵国待遇(MFN)、特恵と繊維・衣服貿易
WTO加盟は、カンボジアにとって大きな利益をもたらすことが期待される。第一は、最恵国待遇による市場アクセスである。非加盟国であると、さまざまな市場におけて輸出品に対して差別的な取り扱いを受ける。第二に、自らの貿易利益を守るためにWTOの紛争処理メカニズムに訴えることが可能になる。第三に、WTO加盟によってカンボジアは、法的枠組みとなる規則の透明性、ならびに行政、貿易、投資、国有企業を統治する規則とその実施の改善を余儀なくされる。これは、ビジネス上の取引費用を引き下げ、これらの経済の生産性を高めるのに役に立つ。
カンボジアは、後発発展途上国(LDCs)に適応されるWTOの途上国に対する特別かつ異なる待遇(S&D)によって顕在的、潜在的な利益を受けた。これらの特別条項とは、WTO協定上の義務の軽減、WTOへのコミットメントを実施する上でより長い調整・移行期間の設置、そしてWTO関係へのインフラの構築、紛争処理、技術的水準の導入である。
一般特恵制度(GSP)は、発展途上国向けの主要な特恵制度である。先進国は、途上国で作られた製品に対して一方的で非互恵的な優遇措置(輸入品に対して、ゼロ関税や最恵国税率よりも低い関税率をかすなど)を与えている。日本のGSPは、ほとんどの工業品に対して無税での参入を提供し、いくつかの工業品、農業品、水産品、に対しては関税率を下げている。2000年に、日本はLDCに対して無税・無制限で輸入される新しい製品リストを追加した。
途上国からの主要輸出品である繊維・衣類の輸出成長の見通しは、多国間繊維取り決め(MFA)によって20年(1974-1994)にわたり抑制されてきた。この下で先進輸入国は、二国間協定を通じて途上国に対して国別の輸出割合を実施した。1995年には、WTO繊維・衣類協定(ATC)がMFAに取って代われた。ATCは国内市場において繊維・衣類への貿易障壁を削減するようにWTO加盟国に要求し、割当の迂回に対しては抗議行動を起こすことを許可した。
ATC後の世界のあり方について、3つの心配事が残されている。第一は、先進国が繊維・衣類の輸入に対して一層予防的保護措置を作動させ得るので、割当廃止による自由化の効果を無効にさせる可能性がある。第二は、割当廃止は、発展途上国間での活動の場を同じレベルにし、以前の割当の配分によって守られていた優遇された供給者やコスト高の供給者に対して罰則を科すことになる。第三は、中国からの輸出の急速な成長に対する懸念である。
3-2. FDI依存と統合
これまで、カンボジアのFDI受入額はかなり少なかった。1980年代の終わりになってFDIを開放し、その額は年々増加した。だが、アジア金融危機の後遺症は、FDI流入額の急激な低下をまねいた。FDIの流入額・粗投資比率によって測られるFDI依存率は、高く、上昇傾向である。FDI残高比率は、FDIの歴史が比較的最近であるにもかかわらず、高い。
カンボジアは、海洋資源と同様に、林業と貴金属といった天然資源部門に関してFDIを導入した。農業部門においては、受入国政府が農地の外国人所有を制限しているために、大きなFDIはほとんど生じていない。そのような制限は地方の農家を保護しているとしても、農業技術の導入や規模の経済の利用を妨げている。製造業においては、輸出産業へのFDI、そして世界的、地域的生産ネットワークとサプライチェーンへの繋がりを求めている。しかしながら、豊富な低賃金労働者がいる一方で、熟練や部品供給者の不足、輸送や物流における非効率性といった問題が残されている。
FDIの今後の見通しには、2つの要因が影響を与えている。第一は、FDIに対する中国からの競争に直面していることである。このために、FDIに対する政策上の障壁の撤廃、プロジェクトの承認手続きや透明性、財産権、物的インフラと熟練して人的資源の確立・向上などを通じて投資環境の改善を継続していかなければならない。また、単一な市場と生産ネットワークの確立に向けてASEANの経済統合急がなければならない。第二は、ポストACTの世界において、繊維・衣類部門にFDIを誘引する競争力を失うかもしれないということである。

図2 カンボジアのFDI
4. まとめ
カンボジア経済は、低所得・後発途上経済であるがゆえに、依然としていくつも開発の課題に直面している。つまり、社会的平等と環境維持とともに、経済成長を追及する必要がある。経済効率と貧困軽減のために、人材を育成しなければならない。そして、経済効率と競争力を改善して、ASEAN加盟国としての義務をはたすために、経済を自由化し、規制緩和を推進するべきである。
5. 感想
カンボジアの輸出は急速に成長し、一次産品の輸出国から衣類の輸出国へと転換した。(労働者の給料は、トゥルーコークの中国系資本アパレル工場で、夜10時~朝5時まで月~土で月40ドルしかない。)しかしこの状況が長期的な経済発展と結びつくかどうかには、疑問があると思う。これまで一次産品の輸出として、木材も主要な輸出品としてきたが、今後、環境の観点から見て持続可能ではないと考えられる。だが、カンボジアには、アンコールワットがある。観光名所への直行便の増発や交通サービスの発展と観光事業の促進に向けてより効果的な地域協力を確立することにおって、さらなる観光事業の成長があるのではいだろうか。ただ残念なことに、日本にとってカンボジアはまだ小さな市場である。日本・カンボジアの企業による現地での合弁企業は、昨年はたった2件しかない。その一方、中国・韓国はカンボジアに多くの投資を行っている。両国の成果も徐々に出てきている。カンボジアは今後、確実に成長する市場であり、この時期に投資をすることは長期的に大きな結果に結びつくと思う。私は、日本は一歩出遅れているのではないかと、危惧している。
また今後のカンボジアにおいては、「大メコン河流域圏(GMS)プログラム」やASEANと一体となった、経済的視点が必要となってくる。これらは、もう既に、物的・資金的・人材的・環境などの様々分野で、国境を越えた取り組みが行われている。日本もちらの方に重心を移していくべきである。
また、来年からは、カンボジアでボーキサイトや石油の発掘がはじまる。石油については、カンボジア政府はすでに韓国LG商社、米国シェブロン、三井物産、中国・香港保利達集団、カンボジア・中国の合弁会社、中国海洋石油などに権利を譲渡している。世界銀行のカンボジア経済関連報告書によると「カンボジアは毎年20億ドルの外貨収入を得ることができ、GDPが今の2倍になって新興発展途上国に入ることができる」としている。以上のように、今後、カンボジア経済と世界経済の統合は進んでいくのではないかと思われる。
参考文献:「開発のための政策一貫性」、河合正弘、明石書店

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