書評「アジアの民芸」
「東京から、空路四時間余りで、フィリピン・マニラ空港に着くが、旅という時間と空間の移動が、これほどまでに、心理的、肉体的に変化を与える例も、まれであろう。タラップに一歩、足を踏み出した途端に、『熱帯』のすべてが、我々を包み込んでしまう。空港の歓送迎デッキは、別離に、再開にと多くの人であふれ、オーバーな身振りが交錯している。頭上をジェット機が噴射音を残し、積乱雲の彼方に飛び去って行く。吹き出て来る汗は、たんに暑さからくるためではなく、ある種の興奮であり、その原因の大半は『音』であった。」
本書の一段落を読んだだけで、一瞬にして、心は日本を離れて、アジア各都市の人々の生活を、著者と一緒に取材している感覚におちいってしまう。本書の取材班は、フィリピン・ネパール・インドネシア(カンボジアはないですが。)などの、木彫・竹細工を取り上げ、市場経済と伝統技術との間に生きる実情を切り取っている。
自身の旅行記では、ここまで表現する能力はないので、さすがNHKの取材班だと感服した。
「アジアの民芸」
発売日:
1978年01月
著者/編集: 日本放送協会
出版社: 日本放送出版協会
サイズ: 全集・双書
ページ数: 283p
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